『世界がやさしくあるためのメモ』(笹井宏之・日野やや子)
文学フリマ書評第2回目は、笹井宏之さんと日野やや子さんの短歌集『世界がやさしくあるためのメモ』を取り上げてみます。
★作品紹介
本書は同じ英単語をテーマに、おふたりがそれぞれに短歌を詠んでいくという形態をとっています。たとえば、あいさつを意味する「greeting」なら、
小難しい話はよしておたがいの水晶体をみせあう手筈
ハグをする ぼくの世界の中心はどこまで行ってもぼくだったけど
といった具合です(上が笹井さん、下が日野さんの歌)。同じ言葉でも、解釈の違いによってまるで別の歌になるおもしろさがあるんですね。私はもともと笹井さんの短歌に関心を持っており、それがきっかけで本書を購入したのですが、日野さんの短歌もとても素敵でした。「xray(エックス線)」をテーマに詠んだ日野さんの、
ろっ骨に小人が棲みついていたとは告知できない外科24時
がすごく好き。そりゃ告知できないは(笑)
読後、とてもやさしい気持ちになれた短歌集でした。
★笹井宏之さんについて
今回紹介させていただいた『世界がやさしくあるためのメモ』ですが、制作途上の2009年1月に笹井さんが逝去されたため未完となっています(享年26)。
短歌に関する知識と興味がまるでなかった私は、笹井さんの死後、報道等で彼のことを知りました。そして不思議で切なく、独特のユーモアを含んだ笹井さんの作品に強く惹かれ、彼の短歌集『ひとさらい』を購入するまでになったのです。人生において、『一握の砂』以来の短歌集購入でした。
生前その将来の活躍を嘱望され、短歌の世界では高い評価を受けている笹井さんですが、かつての私のように短歌にあまり関心がない方にも、もっと知ってもらいたいなと思います。
天井と私のあいだを一本の各駅停車が往復する夜
冬用のふとんで父をはさんだら気品あふれる楽器になった
音を食らう仙人たちのあいだでは意外と評価の高いエミネム
頸椎へ釘打つ職人コンゴ地区優勝候補全員逮捕
以上、『ひとさらい』より引用。