ゲームブック 温故屋

水本シズオと申します。「ゲームブック」の話題が中心のブログです。

『一羽の鳥が飛行機から飛び降りる』(わたりさえこ)

 文学フリマ書評第1回目は、わたりさえこさんの短編集『一羽の鳥が飛行機から飛び降りる』です。
 わたりさんは「ナタリー」というサークル名で文学フリマに参加されています。

★作品紹介
「ガールは海の上を飛んできて、人間に捕まりました」。
 これは表題作ともなっている『一羽の鳥が飛行機から飛び降りる』の冒頭の一文。物語のあらすじを簡単に書いてみます。
「死にかけていたところを人間に捕まった「ガール」。この鳥に似た知能の高い不思議な生物は、脳を鉄の身体に移植させられ、研究所で100年以上も生き続けることになる。しかしそのような状態で生き続けることに疑問を感じ始めたガールは、やがて自殺を考えるようになり……」(※文・水本)

 この後、研究所を訪れガールの気持ちに気付いた少年が、ガールの自殺、そして少年自身の自殺のため、研究所から脱走を試みる展開となります。基本的に少年の視点で物語は描かれていきますが、ガールの少年に対する感情もしっかりと読者に伝わるように書かれており、わたりさんの文章力の高さを感じました。


★わたり作品の魅力
 わたりさんの作品をいくつか読んで感じたこと、それは「静謐」な文章を書かれる方だなということです。様々な感情を文章の中に練り込み潜ませ、文章の前面にあふれ出てこないよう意識して執筆されているように感じました。これは話が嘘くさく、大げさになるのを避けているためと思われます。物語の結末がわかりやすい「ハッピーエンド」や「バッドエンド」ではなく、「なんでもない日常への回帰」が多いのも、物語が芝居じみたものとならないよう意識した結果なのかなと思いました。
 また難解な語句の使用やごてごてした修飾文もないので、とても読みやすくもあります。うまい人の文章はそうですよね!簡素で美しいその文体からときおり「狂気」をのぞかせることもありますが、それもまたわたり作品の魅力のような気がします。