ゲームブック 温故屋

水本シズオと申します。「ゲームブック」の話題が中心のブログです。

「真夜中をさまようゲームブック」(『サキの忘れ物』より)

本日のゲームブックは、芥川賞作家・津村記久子さんの「真夜中をさまようゲームブック」。
今年6月に発売された『サキの忘れ物』に収録されている作品です。
(初出は「美術手帖」2015年10月号)

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本書には9つの短編が収められていますが、そのひとつがこのゲームブック作品。著者は1978年の生まれですから、小さい頃、ゲームブックに親しまれていたんだろうなと勝手に想像しています。
それにしても、ふつうに本書を手にとった読者さんは、途中でいきなり「ゲームブック」が出てきて、とまどったでしょうね(笑)

 

ある晩、家の鍵をなくした私は居場所を探して町内をさまようことに。一篇のなかに無数の物語が展開!
(「帯の紹介文」より)

 

【読み方】
これはゲームブック形式になっているお話です。そのまま手ぶらで遊んでもいいですが、できれば紙とえんぴつを用意し、パラグラフ番号をメモしながら読んだほうが、失敗があった時に元に戻りやすいですし、行動の途中で拾得した物も確実に記憶しておけますので、おすすめいたします。※行動の選択によっては、主人公はかなり簡単に死んだり、警察に捕まったりします。
(作品の冒頭より)

 

主人公は、ゲームブックでおなじみの「君」。性別や年齢もあえてあいまいにされています。パラグラフ数は62と多くはありませんが、ひとつひとつのパラグラフの文章が、(一般的なゲームブックにしては)長めなので、全体として短いという印象は受けませんでした。


ネタバレにならないように、ちょっと内容にも触れておきます。
お酒をのんで帰ってきたら鍵がなくて、家に入れない。さて、どうしようというところからスタート。
ファミレスで時間をつぶしたり、ぶらぶらと町を歩いたりするなかで、怪しげな人たちと出くわし、物語が進んでいきます。後半はけっこう意外な展開になり、最後までぐいぐい引き込まれました。
少しせつなさを感じさせる文学作品ですが、ウイットに富んだ言い回しや、ファンタジー&サスペンス要素も楽しく、良質なエンターテインメント作品でもあります。

おすすめです。


★参考情報
『サキの忘れ物』(新潮社)
著/津村 記久子
発売日/2020年6月29日
価格/1,400円(税別)
パラグラフ数/62