ゲームブック 温故屋

水本シズオと申します。「ゲームブック」の話題が中心のブログです。

ゲームブック形式の小説

今日紹介する本は、SF(?)短編集『第七階層からの眺め』。
収められた短編の1つがゲームブック形式になっています。

著者のケヴィン・ブロックマイヤーさんは、
アメリカで最も将来を嘱望されている短篇の名手だそうです。
生まれは1972年。
10代半ばに「ゲームブック」を楽しんだ世代でしょうか。

チェーホフの傑作短篇をスター・トレック風にアレンジした「トリブルを連れた奥さん」をはじめ、
子供向けゲームブックの形式を使って、人間の最後の一日をたどる「〈アドベンチャーゲームブック〉ルーブ・ゴールドバーグ・マシンである人間の魂」、
宇宙から来た〈実在〉と島で暮らす孤独な女性の交流を綴る表題作「第七階層からの眺め」など、
SF、ラブストーリー、コミック、ファンタジーの要素を駆使しながらジャンルの枠にとらわれることなく、多彩な手法で人間のいとなみを描ききった13の滋味あふれる物語。

ゲームブックになっているのは、上記説明にもある「〈アドベンチャーゲームブック〉ルーブ・ゴールドバーグ・マシンである人間の魂」という作品。
ゲームブック形式になっていますが、ゲーム要素はなく、
あくまで実験的な分岐小説と言えるでしょうか。
ストーリーは、ありふれた一日を過ごしていた主人公「あなた」が、
突然死を起こすまでを描いた物語。
ゲーム性を求めて読むとがっかりするかもしれませんが、結末も一工夫あり、「良質なSF短編小説」としてとても楽しめる作品になっています。
なお、タイトルに入っている「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」とは、
訳者の解説によると「無意味に複雑な仕掛け、装置」を指す言葉だそうです。

最後に、印象に残った一節を抜粋。

時々、あなたはすべてがちがっていたかもしれないと思う。
あるときあなたが実際には左の道を選んだときに、
もしも右の道を選んでさえいたら、
今ごろ、予想しない生活を送っていたのかもしれない。
しかし、また別のときには、
あなたはほかに進むべき道などなかったのだと思う――
必ず、自分が行き着いたところに行き着くしかなかったのだ、と。


★参考情報
『第七階層からの眺め』(武田ランダムハウスジャパン
著/ケヴィン・ブロックマイヤー
訳/金子ゆき子
初版発行/2011年11月
定価  2,200円(税別)