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水本シズオと申します。「ゲームブック」の話題が中心のブログです。

『宇宙の果てで森山と握手』(イガラシイッセイ)その1

 文学フリマ書評第8回目は、イガラシイッセイさんの『宇宙の果てで森山と握手』。イガラシさんは、前回取り上げたしーなねこさんと同じ、文芸サークル「突き抜け派」所属の書き手さんです。このサークルにはおもしろい書き手さんが多いですよ。
 なお、「突き抜け派」はこれまでサークルとして3冊の同人誌を発表しており、イガラシさんの小説はそのすべてに掲載されています。今回取り上げる『宇宙の果てで森山と握手』は、そのうちの2冊目『突き抜け2』に収録されています。

★あらすじ
 下記、本作のあらすじになります。(※会話文以降は、私[水本]が書いたものです)

「おれってさ」
「ああ」
「宇宙人なんだよ」
「は?」
「宇宙人」

 高校進学後のある日、「オレ(荻野)」は小学校時代からの友人・「森山」の正体が宇宙人であることを、本人の口から聞かさる。そして故郷の星に帰るため力を貸して欲しいと頼まれたオレは、軽い気持ちで承諾。転送装置を使っていくつかの星々を経由し、森山の星を目指すことになった。だが、途中で転送装置が故障して……。

★不可解な「宇宙人」「主人公」そして作品展開
 なかなかスリリング展開です。この後物語としては、「なぜ森山は地球に来たのか」「なぜ急に帰ることになったのか」「森山の星はどんな星なのか」「森山の真の姿はどんなものなのか」「なぜオレ(荻野)が選ばれたのか」「惑星エウロパの謎の老人の正体は?」などが語られることになりそうですよね。楽しみですね。ワクワクしますね。しかし……。
 作者はいっさいそれらに深入りしてきません。もう投げっぱなし。また本来、“宇宙人”の「森山」と対比する意味でも主人公の「オレ」はきちんとした“人間”として描かれるべきだと思うのですが、森山のインパクトで目立たないだけで、彼もかなり不可解な人間として描かれています。だって普通、二度と親やほかの友達と会えなくなると言われたら、ほかの星へ行こうなんてしませんよね。たしかに「オレ」は高校生活を楽しみきれていませんが、それでも地球での生活に絶望しているわけではないのです。森山が宇宙人だってことも、あっさり受け入れてしまうし……。SFだからといって、なんでもかんでも「不条理」に描くのはどうなんだろうか。
……と、最初本作を読み始めたときは、展開の強引さや荒さが気になってしまったのです。

 でも読み進めていくうちに、本作をエンターテインメント小説と勝手に私が思いこんでいただけで、作者の意図は別の所にあるのかなと感じ始めました。
 では作者のイガラシさんは何を書こうとしたのか。そして、私は本作のどのような点に強く惹かれたのか。そういったものをいつもながらの勝手な解釈で、次回、語りたいと思います。思うのさ。

ということで、次回に続きますね。