ゲームブック 温故屋

水本シズオと申します。「ゲームブック」の話題が中心のブログです。

『レス・フロムファー』(ヤスオモリ)その2

 今回の記事は前回の続きになります。

★作品紹介『カオちゃん』
 言葉を綴ることへの決意表明ともいえる「はじめに」はやや固めの文章になっていますが(前回参照)、本書に収められたほとんどの作品は軽やかなタッチで書かれています。私のおススメは、本書のなかでもっとも小説らしい作品となっている『カオちゃん』という掌編。主人公である「ぼく」の、小・中学校時代の片思いを描いた作品です。

「ぼく」が好意を抱く「カオちゃん」と会話を交わす場面は、作中に一度しか出てきません。それもほんの二言、三言。中学2年になりカオちゃんは登校拒否となりますが、その際も、カオちゃんの家へノートを届けにいくクラスメートの女子に、「学校来てねってゆっといて」と伝言を頼むのが「ぼく」が見せた精一杯の行動です。このように、基本的に「ぼく」は遠くからカオちゃんを想っているだけなのですが、作中ではそこに見られる淡い恋心や煩悶が非常によく描かれていました。


★作品を発表するということ
 ただ勢いにまかせた文章だけではなく、ヤスオモリさんには少しずつでもいいので、『カオちゃん』のような登場人物のこまやかな感情を綴った小説を腰を据えて今後とも書いていってほしいなと思いました。私が読みたいので!

 最後に、『レス・フロムファー』を文学フリマで発表したことに対し、ヤスオモリさんがひとまず出した結論が、同名のブログ「レス・フロムファー」(2011年6月14日の日記にて)のなかで述べられていたので下記に引用させていただきます。
 いい文章だなぁ。

決して大繁盛とまではいかないけれども、少なからず買ってくれた方々がいたことがとても嬉しかったのです。人と少し繋がりを持ってみようと勇気を出してみた反面、誰からも応答がなかったときの恐怖を抱えていた僕にとって、それは救われるようで、レス・フロムファーな感じでした。霧の向こうへ手をそっと伸ばしてみる、その価値はあるかもしれない。こうして社会的に真人間化していくのを、僕はもうつまらないことなんて思いません。