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『年中無給。せまくてすてきな宇宙じゃないか』(八坂まゆ)その1

 文学フリマ書評第4回目は、八坂まゆさんの小説『年中無給。せまくてすてきな宇宙じゃないか』。本作は、3話の短編からなる連作となっています。
 なお八坂さんは、「蜂蜜猫」という文芸サークルに所属されています。

★作品紹介

「花に祈ると他人の願いを叶えることができる」。あまり自分の役には立たない奇蹟の力を持つ(?)潮生の日常を描いた短編連作集。
(本書裏表紙あらすじより)

 願いを叶えると言っても、主人公の潮生(20代半ば・無職・父と姉の3人暮らし)の能力は「雨を止める」といった程度のもので、成功率も100%ではありません。潮生自身も、あくまで「おまじない」といった感覚でその能力を受け止めています。こうした能力の程度や祈りの対象が「花」という可憐な存在であることは、少し繊細ではあるけれど、優しい心の持ち主である潮生のイメージとよく重なります。

 特殊能力と言うにはあまりにも小さな能力ですので、潮生がこの能力をいかして大事件を解決するというようなことはなく、物語はたんたんと進んでいきます。本書において、潮生の「他人の願いを叶える」という能力はあくまで添え物的なものでしかありません。その能力を「どのように使うか」「誰のために使うか」を悩む過程がこの物語では重要であり、そのなかで自分を見つめ直し成長していく潮生の姿を、八坂さんは描きたかったのだと思います。


雑感は少し長くなりそうなので、また明日以降に!